国境! 国境!!

 ウルムチは新疆ウイグル自治区の区都らしく高層ビルの建ち並ぶ近代的な街だった。ここでは漢人の比率が高いためあまりウイグルらしさを感じないことも多い。とはいえ,場所によってはウイグル食堂が集中するエリアもあって,ウイグル料理の好きな僕はよくそこへ行った。
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 ウイグル人はとにかく羊をよく食べる。たいていウイグル食堂の前ではケバブという串焼きの羊肉を焼いていて,これに釣られて思わず店に入ったこともあった。
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 店の中で頼むのは,僕の場合は大抵この串焼きと,ラグマンという麺料理だった。ラグマンは讃岐うどんのようなコシのある麺に,羊肉と野菜をニンニクとトマトで炒めた具が乗っている。これが本当においしかった。
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 そのウルムチでは,結局観光はせずじまいだった。中国の次の目的地であるカザフスタンへの移動を準備しているうちに,観光する機会を逸してしまったのだった。僕は普段,このブログに旅の手続きの細かいことは書かないけれど,今回はちょっと趣向を変えてこのあたりの“面倒くささ”を書いてみることにする。


【カザフスタンのビザ取得】

 ウルムチに着いたのは日曜日だった。ビザの取得は“お役所”である領事館で行うので,日曜日のこの日は申請はできなかったけれど,翌日いきなり行って道に迷うと嫌なので,一度下見に行った。ビザ申請なんて,早く始めて早く終わらせるに越したことはないのだ。
 領事館ははバスを2本乗り継がないと行けないくらい遠かったけど,場所自体は比較的簡単にすぐに分かったので一安心だった。

 翌日の朝は早めに起きて申請に行く。驚いたことに,領事館の門の前には50人くらいの人だかりができていた。まだ開いていないのかと思ったら,開いてはいるけれど事務処理のスピードにあわせて入場制限をしているのだった。ちなみにその場にいた人々はカザフ系の中国人が多いようで,普段街なかで余り見ることのない顔立ちの人々が集まっていた。
 ウンザリしながらこの集団を眺めていると,スタッフの一人が「日本人か?」と聞いてきた。そうだと答えてパスポートを見せると,外国人ということで優先的に中に入れてくれた。

 領事館では申請用紙に必要事項を記入して提出。行き先や目的など簡単な質問を受けたあと,パスポートを預けて退出。受け取りは2日後だ。ちなみに質問事項は簡単だったけれど,係官の強いロシア訛りの英語が非常にわかりにくかった。何度も聞き返していると「お前は英語が話せるのか?」と言われる始末。お前の英語が悪いんだ!と言いたくなったけど,ビザがほしいのでグッと我慢。神妙に質問に答えた。

 退館して帰ろうとすると,突然「日本人ですか?」という声が聞こえた。60歳くらいの日本人男性が僕に話しかけてきたのだった。どうやらこの人だかりに圧倒されて,僕に助けを求めて来たようだった。僕を中に入れてくれたスタッフの姿を探して,このおじさんも優先的に中に入れてもらった。

 ビザを申請した翌日,宿を移った。ウルムチに着いてから2泊は高い部屋に泊まっていたので,今度は安い宿に移動したのだった。
 ここには日本人旅行者が二人いて,実は二人とも僕と同じ日にカザフスタンのビザを申請していたと判明。じゃあ明日はみんなで受け取りに行きましょう,ということになった。

 翌日の午後にみんなで領事館に行くと,相変わらずの人だかりだった。今度は受け取りの行列だ。今回は自分が日本人であることを証明するパスポートを持っていないので神妙に並んでいたけれど,しばらくして例の日本人のおじさん登場。このおじさんもこの日が受取日だった。
 おじさんもパスポートは持っていないはずだったけれど,気にせず門番に「日本人だ」と言って入っていく。何だ入れるのか,と僕らも一緒になって入れてもらった。中国人の皆さん,ごめんなさい。
 入館してしまえば,あとは預けていたパスポートを受け取るだけだった。

 こうして,めでたくカザフスタンビザが取れた。面倒ではあったけれど,世界にはこれより遥かにビザ手配が面倒な国もある。これはかなり楽なほうだ。


【カザフスタンへの交通手段の手配】

 カザフスタンのビザを取ると,土曜日発の夜行列車の切符を買おうと思い,今度はその足で鉄道駅へ向かった。ウルムチからは,夜行列車に乗ってカザフスタンのアルマティという街に行くつもりだった。この夜行列車は週に2本,月曜日発と土曜日発のものしかない。
 切符売り場に行くと,しかし閉まっていた。この日は水曜日。土曜日の切符は月曜日と木曜日にしか売っていないらしい。仕方ないので翌日もう一度来ることにした。

 明けて木曜日,同じ宿の日本人旅行者と一緒に3人で駅に行った。切符売り場が開くのを待っていると,例のおじさんも来た。4人で一緒に行けたら楽ですね,なんてことを話しているうちに切符売り場が開いた。
 ところが,狙っていた土曜日発の切符は既に売り切れているという。何てこった! しかも月曜日の切符はその日は売ってくれず,また明日来いとのこと。何も手に入れることなく,この日も駅を後にした。


 ここで4人で作戦会議。月曜日まで待つかどうかが問題だったけれど,4人のうちの1人がビザ期限が切れるため月曜日の便には乗れないと言うことだった。代替手段はバスしかない。アルマティは遠い。アルマティへ直行する国際バスは寝台バスなのだけれど,中国の寝台バスはベッドが狭いので,体の大きな僕はできればバスは避けて寝台列車に乗りたかった。僕はビザ期限に余裕はあったけれど,とはいえウルムチに長居したくもなかった。早く先へ進みたかったので,まずはアルマティへ行きバスの空席を確認しに行くことにした。

 ところが,ガイドブックに書いてあるバスの切符売り場の場所が非常に分かりにくかった。とあるホテルに売り場があると言うことだったけれど,このホテル周辺というのがカザフスタン人の溜まり場になっているらしく,ロシア語の看板が氾濫している。
 近くにいた人にアルマティ行きの切符売り場の場所を聞いて探したけれどなかなか見つからない。いろんな人に何度も場所を聞いたけれど,中国語が通じない人もいる。中国語・ロシア語・英語で知っている限りの単語を並べ立て,何とか場所を聞き出す。迷いに迷った末に,何とか発見することができた。

 切符売り場で聞いてみると,嬉しいことに翌日発のバスの切符があるということだった。結局おじさん以外の3人はバスの切符を買った。おじさんはさすがに月曜日発の寝台列車を待つとのことで,ここでお別れすることになった


【カザフスタンへの移動】

 切符を買った翌日,夕方にバスターミナルに行くと立派なバスが待っていた。寝台も意外と広く,ホッとした。ターミナルの食堂で最後のウイグル式ラグマンを食べ,バスに乗り込んだ。

 バスが出発してしまうともうすることはない。毎日ビザや切符の手配で動き回っていたので少し疲れていたらしく,じきに寝てしまった。

 翌朝早くに,バスは国境の街コルガスに到着。高速道路のサービスエリアのような場所で国境が開く時間まで待つ。みんな朝ごはんを食べたりトイレに行ったりしているけれど,僕は国境越えを目前にしてちょっと緊張気味。何を隠そう,僕は越境手続きというのがとても嫌いなのだ。

 やがてバスは国境ポイントへ移動した。国境からは雪をかぶった天山山脈が見えた。
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 まずは中国側の出国手続きだ。出国カードを書いて列に並んだけれど,これがなかなか進まない。1人だとヒマだけど,今回は同行者がいるので助かる。
 出国審査ブースの手前まで来ると,係官の一人が話しかけてきた。お前のパスポートは赤いけれど彼のは黒いじゃないか,なぜなんだ,と聞いてくる。赤は10年有効で黒は5年有効なんだ,と答えると「ああ,なるほど!」という顔をした。彼は偽造パスポートを警戒していたらしく,これは予想外の答えだったようだ。

 この係官,よほどヒマなのか色々と質問してくる。日本人はここによく来るが,なぜカザフスタンやウズベキスタンに行くんだ? 中央アジアの歴史に興味があるから,と答えると,中国こそ長い歴史があるぞ,と言ってくる。いやいや,中国にはもう1ヵ月半もいたからね,と言うと納得してくれたようだった。
 出国審査自体は簡単な質問を受けただけで無事に通過。バスを来るのを待って,今度はカザフ側の入国審査場へ移動した。


 カザフ側の国境はなかなか面倒だった。通常入国審査は税関検査と一緒になっている。当然荷物を持っていないといけないのでバスのトランクを開けてもらおうとすると,ドライバーから先に審査場へ行けと言われる。仕方ないので不安なまま列に並んだ。

 しばらく待ってあと二人で僕の番というところで,おばさんがいきなり割り込んできた。そしてなんと,このおばさんは「私たちグループだから」と言い放って連れの10人くらいを一気に割り込ませようとしてきた。冗談じゃない。頑張って阻止しようとするけれど,向こうも諦めない。声を荒げて言い合いになったところを係官に制止された。
 ちなみにこんなのは日常茶飯事のようで,係官はこのあと何事もなかったかのように,僕たちと割込み組を一人ずつ交互に審査ブースへ通していた。

 自分の番が来てしまえば入国審査自体はすぐに終わり,次に税関検査。ところが肝心の荷物はバスのトランクの中。何だかよく分からないまま小さな手荷物だけで通過してしまった。
 ところが審査場の外に出ると,バスのドライバーが寄ってきて荷物を取って来いと言う。でももう審査場を出てしまったし,という顔をしていると,ドライバーは「ついて来い」というようにどんどん審査場を逆走しはじめた。税関でも入国審査ブースでも係官に「荷物を取ってくるから」と言って通り抜け,バスの停まっている場所に戻ってきてしまった。
 荷物は既にバスのトランクから降ろされていて,それを背負うと今度はまた審査場へ。まだ行列の続いている入国ブースの脇を通り抜け,荷物のX線チェックをすると再び出口に戻ってきた。
 こんなに簡単に逆走できる国境は初めてだった。でも国境さえ抜けてしまえばこっちのもの。これで無事にカザフスタンに入ることができた。


 全員が出てくるのを待ってバスはいよいよアルマティへ出発。途中で昼食に立ち寄ったレストランではカザフスタンの物価の高さを実感。産油国であるカザフスタンの物価は年々上昇しているらしい。
 昼食後はもうひたすら走るだけ。どこまでも広がるカザフスタンの草原の中を,バスは時速100キロくらいで飛ばし続ける。ときどき馬や牛や羊の姿も見える。途中2回ほどトイレ休憩があっただけで,午後7時ごろにようやくアルマティに着いた。約27時間の移動がようやく終わった。


【キルギスへの移動】

 僕の今回の移動はキルギスの首都ビシュケクが最終目的地だ。カザフスタンには一泊しただけで,翌朝すぐにバスターミナルに行き,ビシュケク行きのバスに乗った。ウルムチからここまで一緒だった日本人旅行者とはここでお別れ。面倒な国境を一緒に越えた,ありがたい仲間だった。

 ガイドブックにはアルマティからビシュケクまでは5時間と書いてある。もうあと少しだ。昨日と同じようにバスは草原の中を走り続ける。信号がないのでどの車も時速100キロ以上で疾走している。アルマティ市内を出るときに標識を見ると,ビシュケクまでは約250kmと書かれていた。ところが2時間半ほどでもうビシュケクまで26kmという標識が見えた。あれ,ひょっとしてもうキルギスに入っているのか?

 他の旅行者から,カザフ人やキルギス人は両国の国境をフリーパスで通れると聞いていた。ひょっとして国境管理が甘く,知らないうちにキルギスに入っていたら,カザフ人でもキルギス人でもない僕は不法入国したということになって面倒なことになる。これはまずいと思って,他の人に「もうキルギス?」と聞くと「いや,まだだ」と答えが返ってきた。少しホッとして,それでも道端の様子に気をつけながらバスに揺られ続けた。

 そのうち,バスは国境ポイントに到着した。当り前ながらちゃんとゲートがあって,出入国審査場もあった。ロシア語が分からないので周りの人に助けてもらいながらも順調に国境を通過。前日の中国ーカザフ間よりも遥かに簡単だった。2日続けて国境を通過して,遂に念願のキルギス入国。やった! 遂に来たぞ!!

 国境を越えてしまえばビシュケクまではすぐだった。やがてバスは見覚えのある道に入った。地理が分かると楽チン。去年も泊まったお気に入りの宿の近くで降ろしてもらい,宿へ向かって歩く。ぼくはこの宿に今年も泊まるのをずっと楽しみにしていた。いよいよここまで来たのが嬉しくて仕方ない。自然に歩くペースも早くなった。5分ほど歩いて,ついに目指す「サクラゲストハウス」に辿り着いたのだった。
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by Asirope2 | 2007-07-11 02:24 | キルギス
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