追記その1~旅の本~

 一応,このブログはもう終わったことにしていたけれど,ちょっとだけ追加したくなったのでこっそり何本か書き足します。

 まずは旅の本のご紹介。

① 開高健 「輝ける闇」 (新潮文庫)
 著者が記者としてベトナム戦争の現場へ入ったときの体験を元に書いた本。とはいえ,ルポルタージュとか小説とか,そういうジャンル分けを越えた水準の作品。キルギスのサクラゲストハウスでオーナーに勧められて読み始めたけれど,その叙述のすさまじさに圧倒された。
 僕自身このブログで1年くらい自分の体験を書き綴ってはいたけれど,この本を読んで「自分は今まで何を書いてきたんだろう?」と思わずにはいられなかった。風景や現場の雰囲気の描写の巧みさもさることながら,何よりも人の心理,特に自分自身の心の動きを深く掘り下げて,どんなに醜いことも鮮烈な比喩で全て描き切ってしまう。その表現は僕には衝撃的だった。
 一見したところ抑揚のない文体のようでありながら,最初から圧倒的な緊張感で書き進められている。それがクライマックス直前になると異様な緊迫感の盛り上がりを見せ,最後の部分は猛烈なスピード感で締め括られる。

 自分の旅を真面目にブログやウェブサイトなどで発表しようとしている人には,言葉の使い方と文章の表現力,物事の観察眼,自己の心理の掘り下げなど,大いに刺激になる本。


② 金子光晴 「マレー蘭印紀行」 (中公文庫)
 詩人である著者が,昭和3年から昭和7年にかけてマレーシア・シンガポール・ジャワ・スマトラを放浪した体験に基づいて書いた紀行文。これもキルギスのサクラゲストハウスで初めて手にした。
 詩人ゆえに言葉の使い方が素晴らしい。まだジャングルで覆われていた頃のマレーシアの風土が,空気の匂いまで含めて伝わってくる。
 この本では,著者は出会った人々の生活について描きながらも,その舞台となったマレーシアのジャングルについて盛んに叙述を重ねる。その結果,ジャングルそのものが何か大きな生き物のようにぬっと浮かび上がってくるような気になるときがある。
 僕は当然いまのマレーシアしか知らないわけだけれど,この本を読んでいると昔のマレーシアの風景が目に浮かぶような気になり,無性にマレーシアに行きたくなる。

 小説ではないのでストーリー性はほとんどなく,息の長いゆったりとした語り口は現代向きではないかもしれない。でもこの本も,旅について何かを書こうとするときに,一度は目を通したほうがいい本だと思う。


③ 井上靖 「敦煌」
 言わずと知れた井上靖の名作。その名のとおり,中国西域を舞台にした物語で,敦煌の莫高窟から約100年前に大量の古文書が発掘されたという出来事を基にしたフィクション。僕が今回中国を旅する上で,一番大きな動機付けになった本。
 著者の後年の作品に比べればあっさりした文体だけれど,淡々とした叙述に詩情が漂う。また,本文中でさらりと書かれた一文が,実際にその場所に行ってみると,非常に正確かつ簡潔にその状況を描写していていて驚く,ということを何度も経験した。

 ちなみに,同じ著者の「楊貴妃伝」なども中国の旅を豊かにしてくれた。


 以上のほかに,世界史の教科書や,養老猛司氏の本などもよく読んだ。
 異色なところでは岡本太郎氏の「美の呪力」。ものの見方が変わる本だった。
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by Asirope2 | 2007-10-07 15:35
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