チェンライにて

 チェンライはタイの中でもかなり北のほうにある小さな街だ。街自体にはあまり見所があるわけではなく,周辺の少数民族の村へ訪れるトレッキングツアーの拠点として旅行者が集まってくる,とガイドブックには書かれている。実際,街中に旅行会社はたくさんあるし,小さな街にしては宿や旅行者向けレストラン,インターネットカフェなど,外国人が滞在しやすい環境が整っている。

 僕は去年の旅でも一度,このチェンライの街を訪れている。時間の流れがゆっくりと穏やかで居心地がいい,というのがそのときの印象だった。小さな街なのでバンコクやチェンマイのような騒々しさはなく,地元の人達も穏やかに旅行者を受け入れてくれる。
 この印象は今回来てみても変わらなかった。相変わらずゆっくり流れる時間が心地良い。これはこの街に少なからずいる欧米人にとっても同じらしく,一日中バーでビール片手に何もせずに過ごしている姿をよく見かける。中にはタイ語がペラペラの人もいて,どうやらこの街の魅力にとりつかれて長期滞在している人も多いようだ。

 僕がチェンライに来たのは,もともとラオスに行こうと思っていたからだった。ここからラオス国境までは数時間と近い。インドで40日間過ごす中で,苦しいときには「インドが終わったらラオスが待っている」と自分を励ましていた。ラオスののどかな空気の中で,できれば1ヶ月近くゆっくり滞在してインドの疲れを癒すというイメージが僕の中ででき上がってしまい,それに支えられるようにしながらインドを旅していた。
 ところがチェンライに来ると,ラオスに行く前にここの空気につかまってしまい,ここで何もせず数日を過ごすうちに疲れもあらかた取れてしまった。そしてふと迷った。僕はラオスに行くべきか。

 今までラオスに行ったことがなければ間違いなくこのままラオスに行くべきだろう。でも,ラオスには去年行っている。しかも,チェンライからラオスに入ると,ルート上どうしても去年行った街ばかり行くことになる。更に悪いことに,今は雨季で天候があまりよくない。雨も一日や二日なら風情があっていいけれど,連日続くとさすがに気が滅入るだろう。
 そして更に,もう一つ別のことが気になり始めた。中国の大きさだ。


 中国は広い。どのくらい広いかというと,あの大きなインドの更に3倍もある。インドには40日滞在して結局6~7箇所しか回れなかった。当初の計画ではラオスからベトナムに抜け,中国に入ろうかと思っていたけれど,そうすると中国には2ヶ月弱しか滞在できないことになる。それで納得できるまで中国を見て回れるだろうか?
 中国滞在を後ろに伸ばせばいいじゃないか,と言われるかもしれないけれど,中国の後に訪れる国々の季節の都合もあり,あまり余裕はないのだ。

 さんざん迷った末に,僕はラオス行きを諦めることにした。ビザまで取っていたので残念だけれど,今は中国に時間をかけるべきだ。そう判断して,僕はバンコクからマカオへ飛ぶ安い航空券を手配した。ラオスにはまた行く機会もあるだろう。



 チェンライに何日か滞在して元気になった僕は,久しぶりに街を歩き回ってみた。去年来たときにもよく街歩きをしていたので大体の地理は憶えている。地図を持たずに歩くうちに,街の市場にたどり着いた。僕は市場が好きなので去年もよくここに来たのだ。相変わらず食料品から日用品までたくさん売られていたけれど,行ったのが昼過ぎという時間だったからかあまり活気はなく,ちょっと一休みという空気だった。
 野菜などは日本で売られているものとあまり変わらないものが多かったけれど,山盛りの唐辛子などはタイならではの風景だろう。見ているだけで胃が痛くなりそうだった。
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 中には米を売りながら,その周りにカバンを並べている店もある。カバンもある米屋なのか米もあるカバン屋なのか,日本人なら理解に苦しむところだけれど,ここはタイ。お店のお姉さんに何の店か聞いても,きっと「お米とカバンの店よ」と事も無げに答えてくれるに違いない。物事全てに脈絡を求めるのは都会人の悪い癖だ,と養老猛司氏も言っている。
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 この市場の近くにはモスクがあり,周辺にはイスラム食を出す食堂があった。意外なようだけれど,タイ北部には少数のイスラム教徒がいるのだ。海のシルクロードを通ってきたのか,あるいは西から陸路で伝わったのか。そのルートはよくわからないけれど,僕の好きな文化の伝播の一例がここにもある。

 去年行った所ばかりではつまらないので宿の人にいい場所がないか聞いてみたら,街から少し離れたところにきれいな寺があると教えてくれた。ワット・ロン・クーンという名のその寺へ,トゥクトゥクというオートリクシャーのようなミニタクシーで行ってみた。そして「やられた」と思った。めちゃくちゃきれいじゃないか!
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 タイの寺といえば極彩色でド派手と相場が決まっているようなものだけれど,驚いたことにここは純白の寺だった。タイらしい細かい装飾に小さな鏡が貼りつけられ,それが日の光を反射してキラキラと輝く。今まで見たことがないようなスタイルだった。雨季ながらも運良く日が差し,本当にきれいだった。
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 ここはガイドブックには載っていないけれどタイ人には有名なお寺のようで,参詣者も多かった。
 更に寺の周囲は典型的なタイの田園風景で,日本人には懐かしさが感じられるものだった。ラオスに行けなくてもまあいいか,と思えるような美しい景色だった。
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 このお寺でもかなり満足したのだけれど,次にトゥクトゥクの運ちゃんに連れて行ってもらった場所は僕の満足を決定的なものにした。「食べて寝る場所だ」と聞いて何のことかわからないままそこへ行ったのだけれど,確かにそこは食べて寝る場所だった。川辺に座敷が並び,食事をしながらくつろぐ場所だったのだ。
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 ここの景色がまたよかった。山と川と空。他には何もなく,静かできれい。食事を頼んだら,あとはその景色を眺めてボケーッと過ごす。最高だ。こんなところ,絶対にガイドブックに載ることはないだろう。でも,週末になると地元のタイ人がたくさんやってくるそうだ。
 せっかくなので,お腹が空いていた僕はトムヤムクン(お馴染みの酸っぱ辛い海老スープ),パッガパオ・ムー(豚肉のそぼろ炒め,かなり辛い),ラープ・ムー(豚挽き肉を使ったサラダ,激辛)とお気に入りのメニューで豪勢な食事を楽しむことにした。

 きれいな自然の風景に包まれておいしいタイ料理を堪能していると,ラオスに行けなかった分もこれで完全に取り戻せたなと,十分に納得できた。そしてまた,ガイドブックが全てではないということも再確認した。当たり前のことだけど,やっぱり地元のことは地元の人に聞くのが一番だ。
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 充実したチェンライ滞在に満足した僕は,バンコクへ戻るため,明日のバスでチェンマイに移動することにした。
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by Asirope2 | 2007-05-09 16:29 | タイ
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