カジュラホのアプサラ

 カジュラホに来てから,休養をとっていた初日を除いて毎日寺院を観に行っている。すっかりここの彫刻群の面白さの虜になってしまった。注意深く見ていくと毎日いろいろと発見がある。最初見たときにはその圧倒的な数の像にただ唖然としていたけれど,慣れてくるにつれてそれぞれの彫刻の作風の違いまで楽しめるようになってきた。

 ここカジュラホの寺院群は官能的な男女交合像で有名だけれど,何度も見るうちに僕はその周囲を彩る天女アプサラの像により惹かれるようになった。一口に天女像とは言っても,鏡を見て髪型を整えているもの,(たぶん)足の裏に刺さった棘か何かを抜いているものなど,その像には様々な種類がある。
 また,カジュラホの寺院群は現存するものだけで20余り,実際には80以上の寺院が建てられたという。その一つひとつに膨大な数の像が飾られているので,それらを作った彫刻家も相当数いたに違いない。そのため,同じ意匠の像でも彫刻家による作風の違いが顕著に現れる。顔のつくり・表情や体の姿勢,身にまとった薄いヴェールの表現など,細かいことをじっくり観察していると,時の経つのを忘れてしまうほど面白い。
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 そんな中で一つ,きれいだなと思った像がある。柔和な表情にしなやかで均整の取れた姿勢,ヴェールのひだの質感まで表現されている。強烈さはないけれど,繊細で優美な姿が印象的だった。カジュラホの数多いアプサラ像の中で,この像は優しい表情に満ちていた。
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 この像はかなり分かりにくい場所にある上に,この像の少し下のほうにかなり露骨で強烈な彫刻が並んでいるため,ほとんどの観光客はそちらばかりみてこの像には気付いていないようだった。もったいない,と僕は強く思う。


 ちなみに,これらカジュラホの寺院群と同時期に作られたカンボジアのアンコール遺跡群にも,数多くの彫刻が見られる。当時のインドシナ地域はヒンドゥー文化の影響を強く受けていたため,アンコールの寺院もやはりヒンドゥー教寺院で,随所にアプサラ像が彫られている。去年カンボジアに行ったときの写真を引っ張り出してきて見比べてみた。
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 僕は大抵のことではアンコール遺跡びいきなのだけれど,こと彫刻に関しては本家インドのカジュラホ寺院の方が,二段も三段も優れている。カンボジアのアプサラも美しかったけれど,カジュラホの方が遥かに自由で表情も豊かだ。


 カジュラホはかなり小さな村で,その西に多くの寺院が集中している。特にその中の10ほどのヒンドゥー寺院が塀で囲われ,その中が公園のように整備されている。彫刻もこの西群の寺院のものが保存状態もよく,質量ともに優れていて,今までここに載せた写真も全て西群の寺院のものだ。
 このほかに,村の東と南にもいくつかの寺院がある。村の東には3つのジャイナ教寺院が集まっており,壁面の彫刻はヒンドゥー寺院と共通しているものも一部あるものの,ミトゥナ像(男女交合像)はなかった。どちらかというと地味な印象を受けるのは仕方ない。
 さらにそこから南へ行くと,いくつかのヒンドゥー寺院がある。ただしこれらの寺院は,田園風景の中にパラパラと互いに離れて点在するのみで,団体様御一行の観光バスはまずここまで来ることはないだろう。そのなかの一つに,同じ宿の日本人旅行者と行ってみた。ここはもう,寺院以外には本当に何もないところだった。
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 寺院は損傷が進んでいるようで,その周囲を飾る彫刻にも失われたものが多いようだった。寺院はそれでものどかな風景の中に静かに佇んでいた。鳥の鳴き声や木の葉が風にそよぐ音以外は何も聞こえない。数人の村人が,寺院の入り口や周囲の木陰で静かに過ごしている。強烈な日光と40℃を超える暑さの中で,この寺院の周囲だけ時間の流れ方が他と違うようだった。ここではきっと昔から変わることなく,こうして静かにゆっくりと時が経過してきたに違いない。


 この日の夜,インド舞踊のショーがあると聞いて行ってみた。インド各地の伝統舞踊を紹介するというもので,なかなか面白かった。この中で,インド北部のダンスというのを見たときにアッと思うことがあった。ダンサーが体の動かして一瞬止まったときの姿勢が,アプサラ像そっくりだったのだ。彫刻家はきっと,こういうのをモデルにしてアプサラ像を彫ったに違いない。
 インド文化の奥深さを垣間見た気がした。
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by Asirope2 | 2007-04-15 19:01 | インド
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